来年五代目吉田玉助を襲名される現 吉田幸助氏を知っている方とご一緒する文楽公演は おかげさまで満員続きにもかかわらずいつもとても良いお席をいただける。
今回夜の部 玉藻前 フィナーレの化粧殺生石 は桐竹勘十郎師匠の独り舞台 七変化の舞踊だった。
立役女役、主役の狐 と全て早替わりで細かく踊り分ける。この場面を演じるのには今が旬 という感じ
雷様が背負っている五つの太鼓など三人遣いで顔の前にあるのだから邪魔でしょうがない筈なのにどう動いてもかすりもしない よほどの訓練鍛錬を経ている結果に相違ない。
プログラムにこれが最後 とあるので ”あの時の舞台は素晴らしかった” といつまでも言えるものを今日は拝見したのだと思う。
勘十郎師匠とは以前小グループの講演会のあとの食事でお隣に座らせていただいたことがある。
”どのお役が一番お好きですか?”と伺ったら ”そういう質問には答えてはいけないことになっています。”とおっしゃったが ”人のために嘘をついてその人のために死ねる役でしょうか、、”と続けられたので ”それでは 玉手 ですね。” と申し上げたら ”ああそれが解っていらっしゃれば十分です。” と言ってくださった。
そして いつも自分で床本を書く と見せてくださったその プロ の文字に愕然とした。
この時ほど 自分が 果てしない書の道をトボトボと歩いていてよかったと思ったことはない。
もし これが良いのだ というような習い方をしていたらその場にはとてもいたたまれなかったことだろう。